妖異の時代 西野りーあ「絵詩」個展
1999年5月16日〜30日
SPACE・u


妖異の時代。 異界を放浪し、帰り来たればそこも日常という名の非日常。さまようべし。招く手たちは踊る。妖異たち日常たちが相互に融合し、浸食を繰り返す無境界の領土。
豊穣の混沌からあまたのものが生まれでる。
なつかしい故郷もそこか。幻覚の名をかたって異形の叙情詩をひもとく時。
降りしきる夢と混沌から立ち現れる物語たちは限りなく過去と未来と再生の時空間を行き来する。(個展パンフレットより)


「点から展へ 1999」

 1999年、スペースuではそれぞれのジャンルで活動する女性の個展を一年を通して企画、私は詩人として参加した。

個展 「妖異の時代」

 空間を「部屋」仕立てにした。靴を脱いで床に座ったり寝ころんだりして、「疲れたのでちょっと眠りたい」、「友達と雑談したい」という方も気楽に入っていただきたいと思った。とは言っても、ほのぼの系ではない。横になるどころか怖いとの事で靴を脱いで上がるのも辞退される方もおられた。

 絵を物語り仕立てに並べ、和紙に殴り書いたキャプションを順に張り付けた。「夢魔の階位」と「密約草紙」の二話構成。
 共同参加の田中一夫氏が、空間に遍在する音楽を作成。夢のコラージュ風テープを2時間半のサイクルでエンドレスで流し続けた。

 駅から離れてつつじの公園近く、住宅街の迷宮にぽつねんとある画廊、スペースu。妖異百物語の一話にふさわしい場所。
 「非固有名詞的な誰かの部屋」を想定した。誰かの部屋にあやかしたちの肖像画があり、よく見るとそれらは物語仕立てに並んでいる、詩が散らかる、手書きのメモが混じる。方鏡の鏡台と古びた縁取りの円鏡が奇妙なものたちの出入口としてある。鏡台ではときどき小さな火が灯され、絵の前には誰ぞの持ってきた酒が供え物めいて置かれる。聞くことを強要しない音楽が満ち、異郷からもたらされた古布が椅子にかかり、「これは何だろう」と思うようなものが雑多に混じり込む、奇妙な部屋での休息。

 ご神体めいた雛の冠が風化してゆき、水晶や瑪瑙の玉飾りが転がる。覚え書き風の詩が毎日増えてゆく。オープニングの様子がビデオで流される。立ち寄ってくれた方々は、そして私は、二週間の会期の、過ぎ去った時間、今ある時間、これから来る時間の交差点に立つ。
 そんな雰囲気に、ご自分の作品を壁に張ってゆく人、歌い踊り、知人への伝言を書いてゆく人、布や何やの素材を持ち込んでくれる人、アリクイの毛皮や大蛇の皮を持参して披露する人、と、会期中の積極的なご参加も多く、変化し続けた有り難い二週間となった。

(次のページへ続く)




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