ただ猛霊の大地



 生まれながらの
    凶夢を抱いて
  私は だた荒涼の大地を渡る
           渡る 渡る 渡る

  指に
   天の血潮が揺れる
        揺れる 揺れる 揺れる


           金粉の銀粉の月の眸の
        憂愁、と 人の呼ぶ 魂の


  私には父もなく 母もない
     ただ天族の猛霊が
        私の唇に 指を触れる


  とうに滅んだ 七つの都の
      稲妻閃く 真昼に
          夜に 黎明に


       (澄んだ狂気が 私の心に
           荒れる楽譜を射かけても)


      出逢えなかった恋人よ
          私の腕で 豹たちは眠り
   荒涼の炎の中で
      砂漠はとわに燃え落ち続ける


 出逢えなかった恋人よ
     目もくらむ殺戮が
         此の世に生まれる
       (あなたにここにいて欲しい)

       憎悪の食屍鬼が
          此の世を喰いちぎるのが見える
              見える 見える


    皓い手につるぎをお舐め
        いとしさの妄執に
            心乱れる 昼と夜

  虹の輪の 眩暈の
     猛霊の国の 私は娘
        蜃気楼の王女たちが
           ひれ伏し続ける回廊を行く
      蜃気楼の王妃たちが
          ぬかづき続ける柱廊を行く
              

 天に 地底に
    息吹く 虚空に 声のあり

     「ああ ただ猛霊たれ 我が娘
           薔薇果てしなく燃え尽きるまで」



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(c) 1996-1999 Leea Nishino