「首事情」(フイクション)

日嘉 まり子


 高空から照らす満月光は、Y遺跡に不吉な縞模様を描き、弥生の兵士たちの松明は300、彼らは恐ろしげな情感を顔面に浮かべ、湿ったもやの中に炎の軌跡を引きながら2000年をかけて広場に向っていた ことの起こりは、Y遺跡から戻る途中の電車の中ですでに始まっていた
 伏目がちな若い兵士の吐息が、電車のきしみ音に混ざる
 車窓から眺める丸いものは全て兵士の生首であった
 押し寄せてくる石笛の旋律の中に混ざって、聴く用意のない者が耳にすると、精神に支障を来す種類の断末魔の獣声も含まれていた
そう、平成の世のY遺跡の炎のまつりに介入して来る弥生の兵士の裏魂が、現代においても、敵と味方をはっきりさせようとするのである 
 口論、殺傷事件、倒産、破産、解散、裏切りはその結果である しばらくは気をつけていたが、覚悟を忘れたあやふやな時間帯にその声を何度となく聴かされた その声をうまくかわした時、私をそれて行った声が、集まりに同席していた女に降りかかり、災いが降りるのを見た
 女の形相がたちまちのうちに変わり、「あやまれ、あやまれ」と叫ぶ
 時代を遡り、今と二十映しにいったい何を誰にあやまれと言うのか
 戦いは話し合いで決着がつかない時に起きる外交手段である
 多くの人の首をかけた解散劇が1ヶ月にわたり行われたが、女は人々に疎まれ、集まりを首になった
 現代人と弥生の兵士の裏魂が、背中合わせに双子になる首事件はまだまだこれからであるが、またの機会に述べるとしよう


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