遥か妖霊の呼び声

りーあ代理・迷宮領国電話番


 はい、【WEB揺蘭】迷宮領国出張所です。
 いつも大変お世話になっております。連絡付かない事で有名な、編集人兼、雑用係兼、広報部長兼、災害対策本部長兼、稀覯資源回収係長、りり野はただ今席を外しております。
 戻る時間、ですか? 聞いておりません。お急ぎでしたら、召喚の方法がありますが? 急がない? 
 
 私は電話番ですが。ええ、派遣じゃないです。バイトでもないです。商売じゃないので報酬は出ないと言われております。
 【WEB揺蘭】とは何か、ですか。りり野が戻りましたらお電話差し上げます。え、電話番の意見でいい? 
 アナログ界からの出張版です。【揺蘭】はアナログ愛好者様向けの冊子ですが、ネットにほんの少し侵入しているのです。アナログ誌は五感を刺激する、との理由で、アナログ偏重なのです。
 掲載内容は、アナログ版とは傾向違いますねぇ。WEB版だと、ルビが効果的に表示されないからルビ無し、レイアウトも凝れないから何々、と、制限が多いでし。パソコンの画面を見るのと紙をめくるのでは、脳に伝わる何とかがこれこれ違う、とかで。内容的にも違うようです。
 あ、【揺蘭】は同人誌じゃないんです。まして結社タイプのアレでもないとの事です。寄り合い制で、いわば個人誌の集まりですね。
 どうしてかって。詩の関係は、編集人も含め、古風な束縛が性に合わないからじゃないですか? いえ、もちろん同人活動をなさっている方をどうこう言う意味ではなく。作者は、内的には自国を統治するようなもので、よその国、つまり他の作者に内政を干渉されると険悪になる、しかし交流は積極的という感じかな、と聞かされております。内政干渉とは何の事かというと、良い刺激にならない意味でのあれこれじゃないですか? うーん、何分、精霊会議ですからねぇ。その辺は私にはちょっと。
 世俗のルールとか暗黙の了解とかは、詩には関係ない、と言いたいんじゃないかと思います。
 ええ、詩人はサービス業ではありませんので。ライターでも無いですし。生活のかかった仕事ならニーズは重要でしょうけどねぇ。視点が違う、という意味です。
 あくまで迷宮領国主人、個人の意見ですので、執筆者の方は裏の顔も含めて、別の意見が有るはずです。
 つまり、受けるとか受けないとかは、別の才能という事でしょう。ええ、表現者は芸人じゃないです。だから【揺蘭】は【文芸誌】とも名乗って無いんです。精霊会議は視点のスパンが百年単位ですから。「ああー、ここが納得行かない」と推敲してる間に、幾つも国が滅んじゃっていたりしますから。長編叙事詩が完成した頃には作者不詳扱いになっていたり。あんたら吸血鬼かって? 小説や映画に出てくるようなモノとは違います。
 
 いいえ。電話番してますと、ちゃんと自分の世界を持った方々は、自分の意見を言うけど異なる意見にも耳を傾けるもんだな、と感じます。結局、表現者同士はそういう部分でしか共感し得ないのでは無いでしょうか。だって我が身可愛さでは、作品は作れませんからねぇ。自己愛でも作れない、と聞いております。ナルシシズムとは永遠に無縁だ、とか、自己愛でも他己愛でも無い場所から作品は生まれる、とか。ええ、あくまでりり野の意見ですので、私には分かりかねます。
 ああ、今ファックス入りました。りり野ですが、廃棄処理される牡人魚を引き取りに行ってるようです。ひよこと同じで、牡は引き取り手がないのでまとめて処分されるとかって。引き取ってどうするんでしょうね。海に放すのかしらん。
 そうです。押し入れに秘密の通路があって、海岸に通じてるんです。あ、押入は別の人でした、りり野は浴室でした。
 死海の塩とかアロマオイルとか変なハーブとか持ち込んで、何時間も出てこないんですよ。中で貧血起こしていたら大変なので、声を掛けてから開けてみると。居ないんです! お湯に溶けて髪の毛と一緒に排水孔から流れちゃったのかな、と、下水を探したんですよ。見つからないので困っていたところ、ふらりと帰ってきて。風呂の蒸気と一緒に換気口から外に出ていたらしいんです! 勘弁して欲しいですよぉ。
 召喚の方法ですけど、特定の酒と特定のチョコレートをテーブルに並べておくと、戻って来ます。勿論、入り口に空手のポスターが貼ってある身内の事務所に、「りーあ様。至急連絡乞う!」とファックス入れれば飛んできます。
 ああー、それは、困ります。急用じゃないのに召喚したら後が大変です。
 ああ、そうですね。かしこまりました。りり野に伝えます。
 では、よろしくお願いいたします。
 
    ------完-----


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