相聞歌(そうもんか)
―吉野の鬼―



繰り返し たぐり返しつ 呼び覚ます
記憶の 闇の 弾き語り
夜より深い 闇の底
光を放つ 闇の海
手をひらひらと 振り招く
私を呼ぶのか 隠り国(こもりく)の
紀州 木の国 鬼の棲(す)む
山々 かさなる 闇の上
金粉 降り敷く 銀の月

いとしいものの姿を借りて
夜毎(よごと) 訪(おとな)う ものがある
吉言(よごと) 凶言(まがごと) 蔦たぐりかけ
みすまるの勾玉(まがたま) 首にかけ
腕巻き 手巻(たま)き しずやしず
しずの緒環(おだまき) 繰り返し

いとしいものの 姿を借りて
夜毎(よごと) さいなむ 桜闇(さくらやみ)
ゆめのかよひ路(じ) 吹きとじよ
隠り国(こもりく)の 熊野の地から
よしや 吉野の霧の中

葛城(かつらぎ) 金剛(こんごう) 蔦たぐりかけ たぐり寄せ
貪婪(どんらん)の 七彩(しちさい)の 色踏みしだき
にわか造りの 御所の内
夜毎(よごと) 貪(むさぼ)る 夢寐(むび)のうち
五つ緒車を けものに引かせ
       夜毎訪う 影のもの

  *  *  *

三千世界の 闇塗り込めて
都震わす 魔ものの噂
三界火宅(さんがいかたく)の 火の粉を散らし
夜を惑わす いくさの噂
貴顕(きけん)の住まう 荒れ庭に
魑魅魍魎(ちみもうりょう)の 跋扈(ばっこ)する
黄金(くがね) 白銀(しろがね) 目嚇(まかがや)く
華麗の衣 裾引いて
都路歩く 異形(いぎょう)のやから

夜討ち 強盗 からいくさ
このごろ都にはやるもの
いとし あやかし 妖霊星(ようれいぼし)
争い絶えず 九重(ここのえ)の
爪が引き裂く 綾錦(あやにしき)

  *  *  *

あま夜を翔(かけ)る 片輪(かたわ)の車
炎の髪持つ 邪眼(じゃがん)の童(わらわ)
みやこ 三熊野(みくまの) 吉野の奥に
咲くや 木の闇(このやみ) 桜やみ
虚空(こくう)に群れる 異形のやから
魔を引き連れて 降り来れ
あやし あやかし きらきらし
五つ緒車を けものに引かせ
       夜毎(よごと) 訪(おとな)う 影のもの



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